……死食……

300年に一度
死の星が太陽をおおい隠す
その時、すべての新しい生命が
失われる

人も獣も草花も
モンスターでさえも
その運命を逃れることは出来ない



だがある時
一人の赤ん坊が生き残った
死に魅入られ
死の定めを負ったその子は
長じて魔王となり
世界を支配した

魔王はアビスへのゲートを開き
アビスの魔貴族達をも支配した
しかし、ある日
魔王は突然いずこかへ消えた


 

魔王が消えた後
世界は四魔貴族に支配された
300年後
またも死食は世界を襲い
一人の赤ん坊を残した
その子は死の魅惑にたえ
死の定めを退け
長じて聖王となった
聖王は多くの仲間に支えられ
四魔貴族をアビスへと追い返し
アビスゲートを閉ざした



そして今から十数年前
聖王の時代から300年後
やはり死食は世界を襲った

世界中の人々も
アビスの魔物どもも
新たな宿命の子の出現を
不安と期待を持って見守った

魔王か聖王かそれとも……



SaGa−1「嵐の序曲」


 その日は黄昏時から激しい嵐が巻き起こっていた。久々の嵐に人々は少なからず不安を抱いていた。
「嫌な嵐…お兄様に何もなければ良いのですが…」
 ここはローエングラム地方に位置する新無憂宮ノイエ・サンスーシー。その宮殿の窓から不安げに兄の安否を気遣っている少女がいた。彼女の名はサユリ=ミューゼル。ローエングラム地方の若き盟主、ラインハルト=ミューゼル=フォン=ローエングラムのたった一人の妹である。
(大丈夫ね…。お兄様にはローエングラムの双頭、ロイエンタール、ミッターマイヤー両将軍が付いていっらっしゃるのですから…)
 二人の重臣が側にいるのだから心配ない。そう思いながらも拭い去ることの出来ない不安を抱え、サユリは自室に戻ろうとした。
(…?玉座の間から声が聞えたような…。誰かいるの?)
 宮殿の中央部にある玉座の間の前を通り掛った時、誰もいる筈のない玉座の間の前から声が聞えて来た。声の主を確かめるべく、サユリは玉座の間のドアに耳を差し向けた。
「今夜決行しよう」
「ええ、こんなチャンスは2度とありません」
「あの金髪の小僧は僅かな兵と出陣している。このローエングラムの町を押さえてしまえば、金髪の小僧も手の打ち様があるまい。そこであの小僧めに代わって、この私がローエングラム候になる」
「その時には私のこともお忘れなく、ブラウンシュヴァイク男爵。いや、ローエングラム候ブラウンシュヴァイク閣下」
「無論その時はそれ相応の恩賞を与えるぞ。そう、直にこのローエングラムは私のものだ!ハハハハハ……」
 人気のない玉座の間に響くブラウンシュヴァイク男爵の薄気味悪い笑い声。偶然反乱の全貌を知ったサユリは身の毛のよだつ思いだった。
「それともう一つ、サユリを捕らえておくように。念には念を入れねば」
「分かりました。いざという時の切り札ですな」
(なんてこと…)
 身に迫る危険を感じながらもサユリは心を落ち着かせ、宮殿の2階にある自室へと駆け込んだ。
「マイ、大変なの」
「サユリ…どうした…」
 サユリは自室へ戻り、そこに待機していた自分の侍女にあたる少女に声を掛けた。長い黒髪を携え、神秘的な奥深さを秘めたその少女は、駆け込んで来たサユリに対して上下の関係を感じさせない返事をした。
 彼女の名はマイ。ローエングラムの貴族の娘で、サユリと同い年でもある事から幼い時から友達のように付き添い、サユリが唯一身分や立場を超えて対等に付き合える女性である。15歳の時、その剣技と真面目な性格が認められ、サユリの侍女兼ボディーガードを命じられた。もっとも、互いの身分と立場がより明確になっても、二人の関係は代わることがなかった。
「それが…ブラウンシュヴァイク男爵と大臣が…」
 サユリは話した。兄のラインハルトが不在の間決行されるであろう反乱計画の全貌を。
「分かった…。じゃあ私がラインハルト様の所に知らせに行く……」
「待って。サユリが自分で行きます。危険なのは分かっているけど、このままここにいては男爵に捕われてしまうし、一石二鳥の手だわ。マイはここで私がいなくなったのを気付かれないようにして。出来るだけ長い間…」
「分かった…」
 危険を顧みず自ら兄の元に向かう。そう決意したサユリは、ドレス姿から旅立ちの服装へと着替えた。そして自室の鏡台の前に立ち、鏡に手を合わせた。するとどうだろう、その鏡は左右に開閉し、下層へと降りる隠し通路の入り口が現れた。
「じゃあ、行ってくるねマイ。…お兄様がいらっしゃれば全て解決するわ…。でも、もしあの人がこの場にいたら……」
 兄が不在の時、本来ならば全てを任され宮殿に留まっていた筈の人。その人がもしこの場にいればこの事態は兄が出る幕もなく未然に防げたでしょうに…。いるべき人の不在を憂いながら、サユリは隠し通路を降りて行った。
「サユリ、気を付けて…」
 サユリが降り立ったのを確認し、マイは再び鏡台の前に手をかざした。そうする事により隠し通路の入り口となっていた鏡は、何の変哲もない普通の鏡へと姿を戻した。その直後、サユリが乗馬し宮殿からラインハルトの元へと向かう音が聞こえた。
(そう…ジーク、あなたがここにいてくれたなら……)
 マイも同じ気持ちだった。もしあの人がいたなら、ラインハルト様を呼び戻すことなく事態を打開出来ただろうと……。



 同時刻、ここはモンスター討伐に出征したローエングラム侯ラインハルトの宿営地。
「異常なしです!」
「そうか…。モンスターは稲光を嫌う、今夜は警戒を緩めても良かろう。それと、警備に当たらぬ兵には充分な休息を与えておくように」
「はっ!」
 報告を行いに来た兵士に対し、ラインハルトは事務的な返事をした。黄金色の頭髪に蒼氷色アイスブルーの瞳を兼ね備えた、若きローエングラム地方の領主。彼が現在の地位に就いたのは僅か3ヶ月前の事だった。20代前半の若き地方領主の誕生に、周囲は反発と猜疑心で新しい支配者を迎えた。しかし、そんな周囲の評価はよそにラインハルトはその若さに似合わぬ多彩振りを発揮し、気が付いた時には周囲にラインハルトをよく思わない者はいなくなっていた。ブラウンシュヴァイク男爵とそれに加担する一部の者を除いて…。
「嵐か……」
 絶え間なく宿営地のテントを揺らす嵐。その嵐に対し多少感傷的な気持ちを抱き、ラインハルトはテントの外に出た。
(なあ、キルヒアイス…お前もかの地で俺と同じ嵐を浴びているのか…)
 首に下げた少し大きめのペンダントを右手に掲げ、その中をじっと見るラインハルト。
ペンダントの中には自分と掛け替えのない友の、幼き時の姿が刻まれていた。自分の分身とも言える唯一無ニの友、ジークフリード=キルヒアイスの姿が……。



「異常なし!ってところかな」
 所変わり、ここはローエングラム領内に位置する開拓者の村シノン。その村の若者達が見回りを終え集い始めていた。若者達は少年が二人に少女が二人の計四人。その中の一人、明るく活発な少年が一声を放った。
「ゴロゴロ…ピシャ!」
「きゃっ!」
 その直後稲光が鳴り響き、ショートカットの内気の少女が驚いた。
「雷も鳴り出したし、今日は安全ね」
 もう一人の長くウェーブの掛かった美しい黒髪を携えている少女は、対照的に至って冷静だった。
「どうして雷が鳴ると、モンスターが来ないの?」
「稲光が嫌いなモンスターが多いんだ。ゴブリンみたいに」
「へぇ〜そうなんですか〜。ユウイチさん、相変わらずお詳しいですね〜」
 内気な少女の素朴な質問に対し、ユウイチと呼ばれるもう一人の少年は優しく答えた。
「シオリと同じね」
「う〜、お姉ちゃん、そんな事言わないでよ〜」
「まったくだ。カオリのいう通りだな」
「ユウイチさんまで〜。そんな事いう人嫌いです〜」
 内気な少女はシオリと言われ、カオリと呼ばれる美しい黒髪を携えた少女はその姉にあたる。この二人は姉妹ではあるが、性格は対照的であった。
「と…、降り出す前にそろそろ引き上げようぜ」
「ああ、ジュン」
 ジュンと呼ばれる活発な少年の一声により、若者達は村の酒場へと引き上げた。



 その頃サユリは馬を走らせ、ひたすらラインハルトの元に向かっていた。嵐が一向に止むことなく、天候の回復は望めそうにない中をひたすら走り続けた。
「どうしたの?お願い、走って!」
だがその最中、あまりの連続した運動に馬が疲弊し、途中で走り続けるのを止めてしまった。更に追打ちを掛けるかのように雨が降り出し、嵐はより凶悪さを増し始めた。
(こんな所で立ち止まる訳には行かないわ。馬が駄目なら自分の足で…)
 そうは思うものの、サユリには自身がなかった。今まで宮廷生活を続け外出する機会が殆どなかった自分にそんな大それた事が出来るのかと…。
(痛っ、もう足に限界が来始めたの…)
 木々の覆い茂る森の中を走り続ける行為は、宮殿という温床で育ったサユリには酷なものだった。木々の根が張り出し枝が遮る獣道に、宮殿内を歩くことしか知らないサユリの足は既に限界に達していた。
(でも、こんな所で挫ける訳には…)
 だが、それでもサユリは歩き続けた。自分が行かなくてはブラウンシュヴァイク男爵の陰謀を許してしまう事になる。そうしたら自分の命も、何より兄や侍女で親友同然のマイの命の保障がない。自分の大切な人達を護る為に、自分は歩き続けるしかないんだ。そう心に誓い、痛んだ足を引きずりながらもサユリは前へ前へ歩き出した。
(あれは…シノンの村の光…?)
 歩き続ける足にもその身体にも限界が訪れていたサユリの目の前に、一筋の光明が垣間見えた。領内に位置するシノン村の明りだった。あそこへ行けば馬が借りられるかもしれない、そう思いサユリは最後の力を振り絞ってシノンを目指した。



 

「ふ〜っ。マスター、ここの酒はなかなかのものだな」
「そう言ってくれるとありがたいね。兄さんこの辺りじゃ見掛けない面だな。新しく入植した開拓者って感じでもないし、旅人かなんかかい?」
「まあ、そんなところだ…」
「とうとう降り出して来たな。この嵐じゃ、ゴブリンも夜遊びに出掛けられないな」
 ここはシノン村の酒場。店のマスターと旅人風の青年が談話をしていた所に、シノンの若者達が戻って来た。
「見回りご苦労さん」
 マスターの労いの言葉を聞き、若者達は店のテーブルに腰掛けた。
「ユウイチ、カオリと話がしたいんだけど」
「ああ、分かったよ。シオリ、ちょっと手伝ってくれ。何か作るから」
「はい」
「マスター、キッチン借りるよ」
「あいよ」
 ユウイチとシオリが立ち上がりキッチンへと向かった。そして、カオリと二人きりになったジュンは静かに口を開いた。
「なあカオリ、フェザーンからの船がミュルスの港に着いたって話だぜ」
「へぇ〜。それで?」
「いろんな物がローエングラムまで運ばれて来てるんだ。一緒に見に行かないか?何か買うのもいいし」
「一緒に行くのは構わないけど…。でもねジュン君、私はね、ジュン君とは恋人とか、そういうのにはなれないと思うのよ…。子供の頃から知り過ぎているのよ。まあ、昔はお嫁さんごっこもやったけどね」
「分かった…。やっぱいいや、一人で見に行く…」
「ふふっ…またジュンさんの負けですね。ジュンさんこれで何敗目でしょうね?」
「もう100連敗超えてるんじゃないか?成功したの一度も見たことないし」
 見事カオリをデートに誘うのに失敗したジュンの姿を見て、調理中のユウイチとカオリは温かで皮肉の込められた談笑を続けていた。
「それにしてもユウイチさん、何をやらせても器用にこなしますね〜。料理だけじゃなく、武器も一通り扱えて、術まで唱えられますし…。本当に羨ましいです…」
「ははっ、俺の祖父が厳しい人でな、お前はバーラトの名族の血を引いてるんだから何でもこなせなくちゃ家の名に傷が付くなんてな。まあ、俺としては血や家なんてどうでもいいんだけどな」
「そうなんですか〜。やっぱり良い家柄に生まれますと色々と教育が厳しいものなんですね」
「そうでもないぜ。昔祖父が住んでいたハイネセンに行った時、何処かの同い年位のお嬢様に会った事があったんだ。その娘、俺と対照的で何にも出来ない娘だったな〜」
「ふふっ、何だか親しみやすい人ですね。その方なんていう名前なんです?」
「なんて名前だったかな…。もう七年も前の事だし、覚えていないな…」
 七年前偶然出会った少女。たった一度しか会った事がないのに、ユウイチの脳裏からその少女の面影が消えた事はなかった。名前も顔も覚えていない、でも少しの期間過ごしたその少女との楽しい記憶は忘れる事がなかった。機会があればもう一度会ってみたい、ユウイチは常々そう思っていた。



「馬を…、馬を貸して下さい…お願いします……」
 他愛ない談話が交わされていた酒場、その日常の空間に変化をもたらせるかのように、服や肌を濡らした満身創痍の少女が駆け込んで来た。
「どうしたんだ!」
 その見るに堪えられない痛々しい姿に、ジュンはすかさず少女に近寄った。
「あまり関わり合いにならない方がいいと思うぞ…」
「おい、そこのしけた男!関わり合いにならない方がいいだと!こんなボロボロの姿を見てよくそんな事が言えるな!!」
 カウンターで酒を楽しんでいた青年の非情な言動に対し、ジュンは感情的な言葉をぶつけた。
「まったく…。いいか、そこのお方はローエングラム侯の妹、サユリ姫だ」
「何だって!?」
 青年のさり気ない一言に辺りは少なからず同様を抱いた。ローエングラム侯の妹がどうしてこんな所にと…。
「そんな高貴なご身分の方が、こんな夜更けにボロボロの格好で駆け込んで来たんだ。これは只事じゃないぜ…」
「それじゃ尚更助けなきゃ!サユリ様、一体、一体何があったんだ!俺でいいなら話してくれ」
「お兄様に…ラインハルトお兄様に伝えなくては…。そうしないと取り返しの付かない事に…」
 あまり事を荒立てては行けない、そう思いサユリは今自分がやるべき事だけを適格に伝えた。
「マスター、馬はあるか!」
「あるが、こんな嵐の中駆け抜けるのは危険だぞ」
「何か急ぎの用なんだ!俺も同行するから、頼む!」
「待って、いくら何でも一人じゃ危ないわ。私も行くわ」
 一人でサユリに同行すると言ったジュンの身を心配してか、カオリも同行すると言い出した。
「ふ〜」
「そこで酒を飲んでる人!貴方が腰に掛けてる曲刀は飾り物なの!」
 あまりにも他人行儀な態度を取る青年に豪を煮やしたカオリは、挑発するかのように訊ねた。
「やれやれ…」
   すると青年は立ち上がり、ゆっくりと語り出した。
「先代ローエングラム侯が亡くなってから僅か3ヶ月…。まだ20そこそこの領主だ、不満を持って機会があれば自分が取って代わろうと企んでいる輩がいても別段不思議じゃない。ところでサユリ様、アンタ今金持ってないだろ?俺は前金がないと動かない主義だぜ」
「誰が何と言おうと俺は行くぜ!」
 金なんて関係ない、俺はこの人を守りたいんだ。例え今目の前にいる人がローエングラム侯の妹でなかったとしても俺は助けただろう、ジュンはそう自分の心に言い聞かせた。
「兄さん。アンタ腕が立ちそうだな。ここにも金はないが馬はある。それでサユリ様の護衛をしてくれんかね?」
「馬か…まあいいだろう…」
 酒場のマスターの提案に、ユキトは護衛する事を契約した。
  「で、一緒に付き合うのはそこの2人か?」
「仕方ない、俺も付き合うか…」
 渋々言いながらもユウイチも付き合う事に賛同した。
「そう言ってくれると思ったぜ、ユウイチ。じゃあ決まりだな、この3人で…」
「待って、私も行くわ!」
 ジュンが語り終わる前に、シオリも一緒に行くと言い出した。
「シオリ、あなたは家に帰ってなさい!」
 自分も行くと言い出したシオリに対し、姉であるカオリは家へ帰れと押し立てた。
「お姉ちゃん、私だっていつまでも子供じゃないわ!」
「これは遊びじゃないのよ」
「まったく…俺はどうでも言いが誰が付いて行くんだ…?」
「この4人で行く」
「ユウイチ君!」
 4人で行くと宣言したユウイチに対し、カオリはすかさず反対の意を唱えた。
「カオリ、少しはシオリの気持ちを尊重したらどうだ?」
「分かったわ…。シオリ、付いてくるのは構わないけど、危ないと思ったらすぐに引き返すのよ」
「うん。ありがとうお姉ちゃん」
「どうやら決まったようだな…。まあ、この曲刀カムシーンの名に掛けて5人まとめて面倒見てやるよ…」
「カムシーン!って事はアンタ、あのトルネードかい!」
「俺をそう呼ぶ奴もいるな…。俺はユキトだ」
 マスターが驚くのも無理はなかった。曲刀使いトルネード、その素早い身のこなしと曲刀を使う鮮やかさ、そして剣だけでなく風を司る蒼龍の術も使えることから、いつしかトルネードという異名で怖れ敬われるようになっていた。
「へぇ〜アンタがトルネードか。あっ、俺はジュンだ、短い付き合いになると思うがよろしくな」
「私はカオリよ」
「妹のシオリです」
「俺はユウイチだ」
「私はサユリです」
 ユキト自らが自己紹介した事に対し、他のそれぞれも自分の名前を紹介した。
「わざわざご苦労さん、サユリ様。さてと、とりあえず一休みしてから出発だな…」
「待って下さい!今すぐ向かわないと…」
「サユリ様、アンタのその足じゃ10分も持たないぜ。夜明けを待って腹ごしらえをして、それから出発というところだな」
 皆ユキトのいう事はもっともだと思い、一向は夜明けを待って出発する事にした。



(今頃ローエングラムも嵐なのだろうか…)
 ここはローエングラムから海を隔てた地に位置するハイネセンのスラム街。海の彼方のローエングラムの地を心配するように、赤髪の長身の青年は窓から降り止まぬ嵐を眺めていた。
「ジークさん、やっぱり気になるの?」
「ええ。ラインハルト様が現在の地位にお付きになってまだ3ヶ月、良からぬ事を企んでいる者がいないとは言えない時期ですから」
 ベットに横たわっているカチューシャを付けた少女に、キルヒアイスは自分の胸の内を明けた。
「心配ならボクに構わずいつでも戻っていいんだよ?」
「いいえアユ様、今の私のこの腕ではラインハルト様をお守りする事は出来ません。その今の私に出来る事は、こうして病弱なアユ様のお側で看病を続ける事位です」
 筋を切られ使い物にならなくなった右腕を指し、キルヒアイスは答えた。
「ううん…。ボクには何となく分かるよ、ラインハルトさんにはジークさんが必要だってこと…。だってボクもこうしてあの人を待ってるんだから……」
「アユ様…」
「だからジークさん、ラインハルトさんの身になにかあったらいつでも戻ってあげて。それがラインハルトさんの為だし、何よりボクの気持ちだから…」
「その言葉、心に刻み付けておきます。さあ、この嵐の風雨でお身体の調子をお崩しにならないよう、今日はもうお休みになさりませ」
「うん。お休み、ジークさん…」
 安らかに眠り始めるアユを見てキルヒアイスは思った。アユ様が待ち続けている七年前に出会い楽しい思い出を刻んでくれた少年。彼と再び出会うのが、親も財産も、住むべき場所さえも失ってしまったアユ様の唯一の希望なのだと。そしてその希望が叶うまで、自分が再びラインハルト様の元に戻る事はないだろうと……。


…To Be Continued


※後書き

 後書きとかあった方が作者の顔が見えると思いましたので、このシリーズには付ける事にしました。
 という訳でして始まった『RomancingKanon』ですが、構想自体はロマサガ3の四周目をやっていた辺りから考えていました。プレイ中、「ロマサガ3に鍵キャラと銀英伝キャラ混ぜて書けないだろうか?」とふと閃いたのが事の始まりです。それから誰がどの役をやるとか考えて、4月になってから書き始めました。正直言いまして自分の好きな物を色々と混ぜ合わせたSSという感じです(笑)。また、男が書けて技あり術ありの戦闘シーンが書ける、そういった意味でも今まで抑制していた”書きたい演出”が色々と取り入れられて嬉しい事この上ないです。
 で、肝心の中身ですが、原作で時間に表わして10分程度の冒頭部分を書くのに丸々壱話使ってしまったという感じです…(苦笑)。この調子ですと、オープニングイベントを書き上げるのに少なくともあと2話は要しますね(笑)。最終的には30話〜40話位の話になると思います。1ヶ月に2話のペースですから今年度中に完結する事はまずあり得ないでしょう…(苦笑)。
 後書きがあまり長いのもあれですので、この辺りで切り上げておきます。ではまた次回お会い致しましょう!
※追記
 地名等の設定を若干変更しました。具体的には原作におけるメッサーナをバーラトに、ピドナをハイネセンにです。当初の計画では地名の名称を銀英伝関係に変えるのは、ヤーマス→フェザーン、バンガード→イゼルローン位にしておこうと思っていたのですが、他にもいくつか変更する事にしました。もっとも、全部の地名を変えるのは骨が折れそうなので、それはやらないと思いますが(笑)。

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